しとしとと降り注ぐ色葉の雨。きみの雨は何色...?

距離なんて関係ない。傷つけてしまう恐怖なんて関係ない。伝えたい言葉がある。聞いてほしい言葉がある。君に伝えたい景色がある。君に伝えたい温もりがある。きみを前にすると同じ笑顔で返す事も出来ない僕だけど、いつまでも一緒に隣で笑い合って歩いていきたい。 言葉だけじゃ足りない。この胸いっぱいに溢れる気持ちを。 今、僕が感じてる気持ちが全てのこたえ。 「いつまでも愛してる…」 全てはその一瞬に宿る想いを言葉に…。 少し、私のお話に付き合っていきませんか? そんなに怯えなくてもいいよ? 少し気分転換にさ…。

#あの頃のままの失ったきみ

 

 

 そこは洗練された白亜の壁に囲まれていた。

 まるで外界とのつながりを遮断するかのように。異質の存在として隔離するかのように。目の前には偽物のような創造された疑似的な清廉な空間が存在していた。

 そこで僕は鋭い刃物のような厳しい現実が胸に深く突き付けられた。

 

 「癌です...」

 

 余命、1カ月。ステージ4で他の臓器にまで腫瘍が転移しており、もう手の施しようがないとの事。

 

 告げられた瞬間、頭の中は真っ白だった。

 僕の存在自体がまるでなかったかのように、あたかも蜃気楼のように、甘い夢でも見ていたかのように、心が白く何もなかったかのように塗りつぶされていった。

 そして白だけの世界が歪むように沈んでいく感覚に包まれた。

 まるで透明へと退化させるかのように。私の中の色調と温度を奪っていくかのように。感情を切り取っていくかのように。最初から存在しなかったかのように。虚無へと堕落していくかのように。私の中にあった確かな存在。「それ」はどんどん形を歪ませ、消失していった。

 だが、不思議と心は安定していた。

 心臓は平淡に一定のリズムを刻み、何かに定義されているかのようにトクトクと沁み込んでいき、音だけが鮮明に色鮮やかに瞳へ映りこんでいた。

 それはまるで、隣でもう一人の僕が存在しているようだった。

 

 

 幼少期の僕は特に何か取り柄があるわけではなく、いつもクラスの隅にいて自分の存在を掻き消すかのようにひっそりと佇んでいた。人目にはばかることが苦痛でいつも自分の存在を消す努力を惜しまなかった。小さい頃から体は強くなかったので、どちらかというと家に引きこもるタイプのカテゴライズ。スポーツも苦手だった。スポーツは苦手ではあったけれども、特別アンチのカテゴライズには入らなかった。成績は中の下。いくら努力を重ね勉強を積み重ねても、成績が上がることはなかった。それでも成績が上がることを信じて懇願し、祈り、叶うことを夢見て目の前の勉強というモンスターからは目を背けたりはしない実直な幼少期だった。

 

 中学校へ上がると近隣の小学校の生徒が寄せ集められ、周りは小学校からの長い付き合いの人たちばかりではあったが、知らない人たちの面々もいたので僕の世界が広がっていくことになった。もちろん、中学に上がっても普遍的な僕は何も変わることなく、勉強もスポーツもそれなりについていった。

 

 そして高校、大学へと何事もなく進学していった。平凡な日常を好んで過ごしていたが、浮ついた話などこれっぽちも興味などなかった僕にも大学で初めての経験をした。

一目惚れだった.....。

 

 彼女はいつも僕を気にかけてくれた。クラスで一人ぼっちでいた僕を。

 最初はそんな気づかいが重く気怠く、ねっとりと纏わりつくようで鬱陶しかった。

 だが、彼女はそんな僕の態度にお構いなしに毎日毎日、ずかずかと僕のパーソナリティスペースに断りもなくずいずいと割り込んできた。

 そんな日々を過ごすうちに僕も彼女のありのままの正直な姿が好きになっていった。

 いつしか自分から好きという言葉を伝えずに、互いの好きなものを共有し、同じ景色を見て、時には互いの正義をぶつけ合い、大人の関係へとなっていった。

 だが、突然彼女は僕の目の前から姿を消した。

 彼女はある日を境に突然歩けなくなった。徐々に体が動かなくなり、寝たきりになった。僕は毎日お見舞いに行ったが、日に日に彼女は言葉すらもしゃべれなくなり、息を引き取った...。

 僕は何もすることが出来なかった。何も彼女を助けることが出来なかった。最後の彼女に何も残してあげることが出来なかった。

 そして僕の中から最愛の彼女がいなくなり、今までの平穏が戻り、平凡で凡庸な日常を過ごし大人へとなっていった。

 

 あれから、もう10年も経っていた。

 今の僕にはやり残したことも、やり遂げたいことも何もなかった。何も変わらない日常を過ごしてきた僕には...。だが、このまま何もなくこの世から去るのは不本意だった。

 だから、死ぬまでに10のことを叶える目標を立てることにした。

 そんなことを考えながら川沿いから自宅へ向かって帰っている途中に突然、雨と轟音と激痛に襲われた。

 

 どうやら川から激流を纏いながら、僕に向かって人の数十倍もの図体をしたカワセミが降り落ちてきたようだ。

 え、何を言っているんだ?頭が沸いているのかって?

 そう思うのも無理はない。でも、紛れもない事実であるのだから無理もない。

 ともあれ、迷惑な話だ。お陰で頭部が薔薇のような深紅の赤に染まってしまっているし、頭がズキズキと激痛がするではないか...。

 

 意識が朦朧とする中、優しい香りと温もりを感じて目が覚めた。目を薄っすらと開けると、そこにはどこか懐かしい雰囲気に包まれている女性の顔が目の前にあった。

 

 「ふぇ...?」

 「え、え、え...」

 「あわわわわわわわ!!!」

 

 僕は不確かな意識の中、自分がどういう状況に置かれているのか理解した。

 僕は...見知らぬ女性と思しき女性に膝まくらという名の名目で看病をされていた。足元から頭のてっぺんまで急上昇した熱を帯びながら、僕は膝を折り曲げて額を土にこすりつけながら土下座をかました。

 

 「見知らぬ通りすがりの女性になんてご無礼を!!!」

 「本当にすみません!!!」

 「僕なんかが膝まくらなんて」

 「今すぐにこの頭を切り落とします」

 「本当に本当に...」

 「くすくすくすっ」

 

 彼女は朗らかに笑っていた。

 彼女の笑い声を聞き、僕は正気に戻った。その声には聞き覚えがあった。忘れるわけがない。

 そして僕は笑い声と共に初めて彼女の顔を見上げ、初めて彼女の顔を認識した。

 

 「そのおろおろした素振りも変わっていないね」

 「久しぶり、私の事覚えているかな...?」

 

 忘れるわけがない。その声も、その匂いも、その温もりも、その笑い方も、その笑顔も全て...

 あの頃のまま変わらない彼女がいた。

 10年前、僕の前から去って行ってしまった彼女がいた。10年前に命を落とした彼女がいた。

 

「驚いた...?」

「てか、普通驚くよね。あはははははっ」

 

 

 

この続きのストーリーは読者の皆さんが考えてみてください♪

 

----- end of story -----